峠国のホテルから出た梧桐は、すぐに芥川と合流する。
「お、帰って来た。ずいぶん遅かったな、もう待機させてるから。」
「あぁ。」
「……、あのよ、梧桐。」
「女に怪我はさせてない。殴ってもない。」
大柄で、梧桐よりもはるかに強い顔をしているが、女にだけはすこぶる優しい芥川。
「!そっか、良かった良かった。で、どんな女だったよ?」
「初心者なだけあって、ほぼ警戒はなかった。睡眠薬入りのコーヒーは疑いもなく全部飲んでくれたし。」
若干引き気味の芥川。
「そんなのまで飲ませたのかよ…。」
「余計なことされると面倒だから。」
「まぁ、でもよーそんなんで大丈夫なのか?この世界、危なくねーか?」
「俺もそう思う。だから、とりあえず月岡からもらった元手全部(100万)置いてきたから。」
「え!?何で全部置いてきたんだよ!?どけちの月岡が怒るぞ!せめて、10万ぐらいで良かっただろー!」
「もう、置いて来たんだから今更言っても仕方がない。」
「えぇー」
その後、ちょっと顔を赤くして芥川が梧桐に耳打ちする。
「で、な、なんかやっちまったりとかした?ちょっと遅かったもんなー。」
梧桐は不快感を覚え、芥川を殴り払う。
「気持ち悪い顔すんな!」
「ごめんてー!」
梧桐は指で眼鏡を押してから、これからの算段を頭のなかで描く。
室内には、できる限りの痕跡を残してきた。まとまった金を置き、連絡先を記したメモ。
そして何よりの保険は女の名前ーエザワマイコ。名前さえあれば、誰かしらのネットワークには必ず引っかかる。
だから後回しにしても問題ないと、この時の梧桐は判断したのだ。