新生活11ー事後(編入前の話)

峠国のホテルから出た梧桐は、すぐに芥川と合流する。

「お、帰って来た。ずいぶん遅かったな、もう待機させてるから。」

「あぁ。」

「……、あのよ、梧桐。」

「女に怪我はさせてない。殴ってもない。」

大柄で、梧桐よりもはるかに強い顔をしているが、女にだけはすこぶる優しい芥川。

「!そっか、良かった良かった。で、どんな女だったよ?」

「初心者なだけあって、ほぼ警戒はなかった。睡眠薬入りのコーヒーは疑いもなく全部飲んでくれたし。」

若干引き気味の芥川。

「そんなのまで飲ませたのかよ…。」

「余計なことされると面倒だから。」

「まぁ、でもよーそんなんで大丈夫なのか?この世界、危なくねーか?」

「俺もそう思う。だから、とりあえず月岡からもらった元手全部(100万)置いてきたから。」

「え!?何で全部置いてきたんだよ!?どけちの月岡が怒るぞ!せめて、10万ぐらいで良かっただろー!」

「もう、置いて来たんだから今更言っても仕方がない。」

「えぇー」

その後、ちょっと顔を赤くして芥川が梧桐に耳打ちする。

「で、な、なんかやっちまったりとかした?ちょっと遅かったもんなー。」

梧桐は不快感を覚え、芥川を殴り払う。

「気持ち悪い顔すんな!」

「ごめんてー!」

梧桐は指で眼鏡を押してから、これからの算段を頭のなかで描く。
室内には、できる限りの痕跡を残してきた。まとまった金を置き、連絡先を記したメモ。
そして何よりの保険は女の名前ーエザワマイコ。名前さえあれば、誰かしらのネットワークには必ず引っかかる。
だから後回しにしても問題ないと、この時の梧桐は判断したのだ。