10分後、やっと場が落ち着いて、眼鏡をかけ直した梧桐。顔にはあざができている。
ソファで座っている梧桐以外は、気をつけの姿勢で立たされたままで、愛子も一番端でなぜか一列に並ぶ。
まずは梧桐から非難の目を向けられたのは、芥川と日比野。
「俺は、誰もなかに入れるなって言ったよな?」
部屋の隅では芥川と日比野が梧桐以上に負傷し、小さく縮こまっている。
事の顛末はこうだ。突如現れた女子の不意打ちの頭突きに顎を負傷した梧桐。カッとしたのかすぐさま反撃しようとしたが、そこに芥川と日比野が投入され、梧桐の気がすむまで二人がボコボコにされたという落ちであった。
その悲惨さに、愛子は軟化していた梧桐のイメージが以前よりももっと前に戻るのを感じていた。
そんな重苦しい雰囲気を破ったのは、先陣を切って扉を開けた髪の長い長身の女子。
「まぁまぁ、ごめんってー!」
不快感を隠さない梧桐。
「浅見も乙坂も、お前らよ。何やっても許されると思ってんのか?きっちりケジメつけてもらうからな!」
「悪い悪い、だってさー、芥川と日比野が、編入生の女の子が拉致されてるっていうからー」
「そうそう、そりゃ急いで頭突きしにいくってば。」
「どっちにしろペナルティ(別名:地獄の裏庭掃除※海の潮に当てられてかなり汚い)は受けてもらう。お前ら全員。」
「あーはいはい。確かに悪かったとは思うよ?だって、口説いてる最中に邪魔しちゃねぇ~」
舌打ちしてから、黙って席から立つ梧桐に悪い予感がしたのか、芥川が焦って止めに入る。
「おい、浅見もおちょくんな!殺されたいのかよ!!」
「はは。でも、梧桐も大人になったじゃん。女の子殴ってないし。」
後ろで項垂れる日比野。
「そりゃ、お前が俺たちを犠牲にしたからだろ…。」
それから髪の長い長身の女子が、周囲の雰囲気に圧倒されている愛子のほうを向く。
「あ、そーだ。転校生の子!初めまして、あたし浅見ルナっていうんだ。よろしくね。こっちのちっさいのは乙坂。」
「よろしくね、編入生。」
「あ、衣沢愛子です。よろしく。」
こんな場ながら和やかに交わされる挨拶。
浅見は愛子をニコニコとした笑顔で見た後、梧桐に言う。
「え?梧桐ってB専だったんじゃないの?前、陸奥が言ってたけど。」
「陸奥のいう8割方は嘘に決まってんだろ。そいつは、今度のソワレの従業員候補だよ。今日は顔合わせてただけ。」
「あ、そうなんだ!だからかー。よろしく!あたし、ソワレに出るからさ!」
浅見と乙坂は、ワクワクとしながらまだ愛子からあれこれ聞きたそうにしていたが、すぐにチャイムがなって、長い昼休みの終わりを知らせた。