愛子は、お昼ごはんを食べ終えるとトイレへと向かう。きれいなトイレは数が多く快適そのもの。
手洗い場で視線を感じて顔を上げると、鏡ごしに小麦色の肌をしたギャル風女子とばっちり目が合う。
「あ、編入生だ!わかるかな?同じクラスの木村マミ(きむらまみ)っていうんだ、よろしくね!」
ニコニコと笑う木村マミは警戒心の一つもなく、ぐいぐいと愛子に近づいてくる。
「谷川から来たんだよね!?いいな~、超都会っ子だね?!」
「そ、そうかな?…木村さんのほうが都会っ子っぽいよ。」
「またまた~!マミは、どう見たって海辺のギャルっしょ!」
ギャルっぽいマミではあるが、人懐っこい笑みは飾り気がなく、年相応にあどけない。
「南海はどう?いろいろ回ったりしたー?」
「えーと、まだあんまり。3月中旬に越してきたばかりで、ちょっとずつ見ていければなって。」
「あ、なら今度、遊びに行かない??マミ、南海紹介するよ!」
「あ、う、うん。是非。」
マミの勢いは止まらなず、距離はさらに近くなる。
「じゃあ、とりあえず連絡先交換しよ!どこの使ってる~?」
「あ、ごめん。実は、スマホは持ってなくて。」
「え!?ま、マジで??いまどき??」
愛子は自分専用のスマホは持っておらず、あるのは家におきっぱなしの弟・充との共有スマホのみ。
マミは信じられない顔で愛子を見ていたが、そこでトイレに入ってきたのは、同じクラスの和風美人と長身女子。
「こらこら、スマホの所持は別に義務でも何でもないんだから。」
「あ、京子!」
「私もいます」
「野沢っちも!」
3人は顔見知りのようで、親しげに名前を呼び合う。京子と直子が、すかさず愛子のフォローに回る。
「ごめんごめん。マミは、悪気ないんだけどね。スマホなんて、持ってると目が悪くなって、バカになるだけだから。」
「スマホは、私も高校生になってからだったよ~。いろいろ家庭の方針もあるもんねぇ。」
そこで、やっとマミはハッとして愛子を見る。
「!え、あ、ご、ごめんね!マミ、単純に連絡交換したかっただけで!」
「大丈夫だよ。家に弟と共有のスマホはあるから、それ今度持ってくるね。」
同じクラスの4人は、自然と一緒に教室の方向へと歩み出す。
「あ、マミが南海案内する日は、あたしと野沢っちも同行しようかな。」
「お、いいですな~。」
「じゃあ、皆で行こう!そしたら超楽しそうじゃない??」
愛子は、隣を歩く同じクラスの3人を見る。それぞれ雰囲気は異なるものの、担任の先生が言っていたように和気藹々とした臨海高校の生徒たち。それは、むず痒さを感じるほど。