まだまだ昼休み中の臨海高校。ところかわって、ここは東棟4階の海の見える臨海2年実行部の部屋。
梧桐が扉を開くと、そこには、芥川や日比野などの実行部のメンバーがすでにいて一番に反応したのは、青山悟(あおやまさとる)。10人いたら10人が美形という、超正統派イケメンだ。
「お、遅かったじゃーん、あお。」
「部外者は出てけ。」
「ひっどいな~。俺は、あおのことこんなに好きなのに~。」
「喧嘩売ってんなら買うぞ。」
「うそうそ、ジョーダンよジョーダン。……そいや、橋村はどーしたの?」
橋村の名前が出た途端、梧桐・芥川・日比野が3者3様に反応する。
なかでも、引き続きイラつきを隠さなかったのは梧桐は、青山の首元を掴む。
「お前、いい加減、わざと聞いてんだよな?この前から、ヘラヘラヘラヘラしやがって。」
「まま、落ち着いてって。本当にわかんないから聞いてんだからさー。仲良かったのにいないから寂しくて。」
イラついている梧桐と芥川を見て、日比野が慌てて仲裁に入る。
「梧桐、落ち着けって。…橋村は陣から追放されて、学校もやめてるよ。もう1ヶ月も前に。」
「さすが、日比野は優しいな~。で、何で?」
「裏で、女の子たち使った違法な斡旋業をやってたんだよ。で、俺たちが処理したって言えばわかるだろ。」
「くく。悪いやつだったんだなーあいつ。」
軽い調子の青山に、次に切れたのは芥川。
「ずいぶん他人事だな!梧桐も日比野も俺も、後始末でめちゃくちゃ大変だったんだぞ!」
「そりゃ、ご苦労さん。まぁ、でもあおがいれば余裕だよね?」
飄々と調子を変えない青山に、日比野はため息をつく。
「はぁ、青山お前も、今度のソワレか幹部会には行ったほうがいいぞ。むっちゃんも怒ってるから。」
「あー、はいはい。わかってるよ、そんなことはさぁ。」
青山は臨海高校の実行部メンバーであり、陣でも幹部メンバーにあたる。だが、休学と復学を繰り返しながら通学しているため、実行部としての仕事はほとんどしておらず、同様に陣のほうでも活動実態がない。
だが、とにかく無駄にハイレベルな美男子で、南海エリアでは抜群の知名度を誇った。
「誰か新しい子いれないの?女の子とか。こんなんじゃ足りないだろう、実行部。」
軽口を叩き続ける青山に、イライラしながら答える芥川。
「つーか、青山、お前がしっかり仕事してりゃ、橋村なんていうクズ入れなくてすんでんだぞ!?わかってんのか!どんな事情があったとしてもよ!」
日比野が冷静に青山に返す。
「女の子には、危険なことさせられないから、入れないのはうちの基本だ。」
「でも使えない男入れるよりは、いいんじゃん?女子なしだから、俺もやる気でないのかもしれないし。」
「簡単にいうなよ。それに俺は、やっぱり女の子に危ないことはさせたくない。」
「頭かたいな~。」
「はぁ?!んなら、梧桐に言えよ!」
青山の無責任な軽口に耐えきれなくなった日比野の言葉を受けて、見合う梧桐と青山。
「まぁ、あおの言う通りが、俺も一番いいと思うけどね。」
「「(このクソ野郎……)」」※芥川&日比野コンビ
梧桐はというと、すでに青山のことは気にも留めずに、自分の作業を進める。
「芥川、そいやこの前言ってたソワレのアルバイト候補、至急頼む。陸奥から急かされた。」
「あぁ。それが、結構良さそうなの見つけて。」
「そうそう。2Cの編入生な。感じいい子だったから、俺と芥川で推薦しようと思ってんだ。」
先日見た編入生の情報を思い出す梧桐。両親はすでに亡く、血縁者と暮らす訳ありの女子生徒。でも、梧桐のなかでは”あのときの女”と似たややこしい名前だという印象が強い。
「どんなやつだった?」
「俺の席の隣なんだけど、なんかすげーたくさんアルバイトしてるって。あと、いまどき手帳なんて愛用しててよぉ。」
「手帳?」
「そう、ちょっとびっくりしたけど。スマホも持ってないとかなんとか。その時点で、けっこう有力候補だろ?」
梧桐は指で眼鏡を押しながらうなずく。
「ふーん。なら、とりあえず今日の放課後連れてこい。問題なければ、そのまま陸奥のとこ連れてくから。」