放課後。愛子が急いで荷物をまとめていると、隣の芥川から声がかかる。
「衣沢、いまちょっと良いか?」
「え?あ、何?どうしたの?」
「実はよ、めちゃくちゃ給料がいい”仕事”があって、アルバイト募集してるんだけど。」
そこにいつの間にか加わったのは、日比野。
「衣沢、朝アルバイトたくさんしてるって話してたろ?金が欲しいなら、いい話だと思うぜ。」
愛子は、直子が話していた実行部のアルバイト斡旋の話を思い出す。これがそうかと感心しながらも、すでに2つのアルバイトをしている愛子にはあまり現実的な話ではない。
「ありがとう。でももう2つ仕事掛け持ちしてるんだよね。」
「大丈夫、大丈夫。それイベントみたいな仕事で、年3回しかないから。」
「イベント?いつなの?」
「4月・8月・12月の第三土曜日ってのはもう決まってる。給料も、めちゃくちゃいいんだぜ?普通のバイトの10倍ぐらい行くこともあるし。」
甘い響きに、愛子もさすがに耳を傾ける。ちょうど土曜日は、シフトの関係で休みになっていることが多い。緑の手帳を鞄から引っ張りだして、4月の第三土曜日を確認すると、海音のアルバイトが入っておらず完全フリーだ。
「空いてはいるみたい。」
「なら、決まりだな!だったら早速もう一人の実行部のやつに、会って欲しくてさ。」
「え?今から?」
愛子は、教室に掛けられている時計を見る。すでに午後3時前で、これからの予定を考えると悠長に話を聞く時間は残念ながらない。
「うーん、ごめん!続き、来週でいいかな?今日用事があって、ちょっと急いでるんだ。」
愛子が帰り支度のピッチを早めると、日比野らが異様に慌て出す。
「え!?いや、ちょっ、5分ぐらいで終わると思うから!」
「ごめんね。時間がギリギリなんだ。また来週詳しく!」
二人の制止を無視して、愛子は教室を飛び出した後、残された日比野と芥川が見合う。
「梧桐にはお前が言えよな。」
「何で俺が!殺されちまうだろうが!」
「俺でもやられるわ!」