その日、峠国ホテルに訪れていたのは梧桐と、カードキーを見ながら呟く芥川。
「田中っつー常連客から聞いた限り、毎回ここらしい。えーと、部屋は355室かな。」
1月終わりから、梧桐を始めとした臨海高実行部メンバーは忙しくしていた。理由は、メンバーの1人である橋村が峠国エリアで違法な斡旋業をやっているというタレコミがあったから。
橋村といえば陣メンバーであり、臨海高校の実行部の一員。
すぐに陣トップである陸奥からは、梧桐たちに対して速やかに”橋村”を処理するようにとお達しが出た。もちろん、橋村ひとりを潰すのは造作もないが、陸奥らの発案で、かなりの売り上げをあげている店ごと押えることになったのだ。
だが、橋村は絶妙な具合で店の情報を隠していて、気づかれぬよう外堀を埋めるため要した日数は1ヶ月に及んだ。
そんな面倒で、地道な1ヶ月を思い返す梧桐。
「女には、俺が一人で会ってくるから。」
「え!?1人で??」
「お前、やたらと女に優しいだろ。」
「でもよ…さすがに殴ったりはさ。相手は女なんだし…。」
「ここで失敗したら、一ヶ月水面下で動いた苦労が水の泡な。そのぐらいわかんだろ。」
「でもよぉ。」
有無を言わせず、梧桐は指で眼鏡を押す。
「1時間以内に、終わらせる。事務所の場所がわかったら、連絡入れるから日比野たちに確認させろ。終わるまでは、田中っていう客の見張りも怠るなよ。」
「お、おう。」
行こうとする梧桐を、再び呼び止める芥川。
「じゃあ、本当くれぐれも暴力沙汰起こすなよ?話も面倒になるし、女の子も可哀想だしよぉ。」
「うるせぇな!そんなことはわかってんだよ!」
「ひぃ!」