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◎前置き

4月から海沿いの地方都市・南海に引っ越してきた高校2年生の愛子。
そこで愛子は、穏やかな海とたくさんの住人たちに出会う。南海エリアに根付く同世代のコミニティ”陣”や、その陣が運営する若者向けの一大イベント”ソワレ”など、なかなか刺激が多い南海での新生活。
前にいた谷川でのことも考えない時間が増え、季節もやがて暑い夏へと移っていく。
そして控える学生の宿命・期末テストという難題から大きく揺れ動き始める、夏休み前の愛子の心模様。

 

登場人物(振り返り用)

◇衣沢家
衣沢愛子(きぬさわあいこ)……南海エリアの臨海高校2年生(C組)。谷川から南海の臨海高校に編入。
衣沢充(きぬさわみつる)……愛子の弟。小学生6年。
神村逸子(かみむらいつこ)……愛子と充の叔母。二人の保護者。

◆臨海高校
梧桐秋也(あおぎりあきや)……臨海高校2年生&実行部トップ(A組)。陣幹部のナンバー3。眼鏡こだわり派。
青山悟(あおやまさとる)……臨海高校2年&実行部(B組)。陣幹部のナンバー5。軟派な超美男子。
芥川純(あくたがわじゅん)……臨海高校2年生&実行部(C組)。陣の上位メンバー。茶髪の大男。
日比野勇臣(ひびのゆうしん)……臨海高校2年生&実行部(C組)。陣の上位メンバー。潤滑油のような男。
真木京子(まききょうこ)……臨海高校2年生(C組)。強気な和風美人。
木村マミ(きむらまみ) ……臨海高校2年生(C組)。天然で小心者な黒ギャル。
野沢直子(のざわなおこ)……臨海高校2年生(C組)。のんびりとした超長身細身女子。
浅見ルナ(あさみるな)……臨界高校2年生(A組)。カリスマあふれる美人で、南海では抜群の知名度を誇る。
乙坂由美(おとさかゆみ)……臨界高校2年生(A組)。浅見の親友。身長が低いが、石頭&物怖じしない性格。
伊地知(いじち)……臨海高校2年(D組)の陣メンバー。ソワレで愛子が働くレパスホール総括で、料理長。

◆ソワレ・陣関係者
陸奥英司(むつえいじ)……17歳。南海の若者世代のコミュニティ『陣』のトップで、ソワレの実行役。
笠間稜(かさまりょう)……17歳。陣幹部のナンバー2。実家のバイク屋勤務。

◆南海の住人
坂道真知子(さかみちまちこ)……南海駅前の純喫茶『海音』の店主。愛子の一つ目のバイト先。逸子の後輩。
山本夫妻(やまもとふさい)……臨海高校近くの商店街の惣菜屋。愛子が9月から始めるバイト先。

 

『期末テスト前』

衣沢愛子が南海に引っ越してきてから、あっという間に季節は変わっていく。初夏が過ぎ、本格的な夏がやってくる少し前。暑い日差しも徐々に増え、服装もほとんどの人が夏スタイルへと変わる。
そんな時節、高校生である愛子は期末テストを目前に控えていた。
愛子・充姉弟の前に、叔母の神村逸子が大きめのカツ丼を差し出す。
「す、すごい大きい。俺の顔よりでかいじゃん…」
「当たり前でしょ。特に愛子は明日から期末テストだから、気合入れてもらわないと。」
「テスト…。」
「愛子、今度はしっかり50位以内を狙うのよ!」
「う、うん…。」※中間では78/100位
「まったくもう。谷川では進学校に通ってたっていうのに。こっちにきてから、ちょっとアルバイトしすぎなのよね。今回、ダメだったら、バイトは減らしてもらうからね!」
「え!?そ、それはダメだよ!」
「学生の本文はなに?!」
「べ、勉強です。」
「そうよ。働くのなんて、学校を卒業したらずっと続いていくんだから。もっと勉強も遊びもしてって、言ってるでしょう。」
それは常々、逸子が愛子に言っていること。もちろん愛子はそれなりに学校生活を楽しめるようになったし、仕事だって充実している。でもアルバイトを週6,7回入れて、勉強がおざなりになっていた面は否定できない。
それでも、愛子にとっては必要な勉強は、卒業できるぐらい、落第点にならなければいいという考えが強い。ただ前回の中間では、ギリギリ落第ラインを免れたのも事実だ。
「どっちにしろ、アルバイトはもう少し減らして遊びなさい!勉強よりも大切よ。なんなら彼氏の一人か二人、作ってもいいからさ。」
逸子はニコニコして止まらない。
「あ、もしかしてもういたりして~?最近なんかきれいだし、目も肌も輝いているもんね!」
箸を置き、大真面目な顔をした充が逸子に反論する。
「おばちゃん、気のせいだよ。」
「なに言ってるの。愛子は、けっこう美人なほうよ?ね?」
「おばちゃん、マジで目が悪いんじゃないの?働きすぎで疲れちゃってるんだよ。」
愛子は、マジめな顔をして言う充を小突く。
「まぁ、でも。うちの学校、かわいい子も美人な子も多いからなー。」
愛子は、背が高くてモデルのような野沢直子や、自分に似合うメイクやファッションを知ってる木村マミ、もともとが美人な真木京子の顔を思い浮かべた。さらに浅見などをあげれば、キリがない。
「バカね。それとこれは別よ!ただ一人の人にそう思ってもらえればいいんだから。この南海にだって、一人ぐらいはいるわ、愛子みたいなのがタイプの子。それに恋はいいわよ~。子供さえできなければ、どんどんしてくれていいから。」
最後の一言に思わず、のどを詰まらせるが、当の逸子は本当に楽しそうな顔。もともと逸子の学生時代は、真面目な愛子・充姉弟やその母親と違って、かなり派手で遊んでいた話を聞いているので、いまだに話しているとカルチャーショックを受けることもあった。
逸子は、終始ニコニコと続ける。
「でも愛子、最近、本当に楽しそうで良かった。」
「うん。本当に、ここに来て良かったと思ってるよ。ありがとう、おばちゃん。」