新生活1ー臨海高校編入

夜、テレビを見ていた高校2年生の衣沢愛子(きぬさわあいこ)は、外から聞こえてきた声に反応する。

「愛子、カレーたくさん作ったから持ってきたわよー。」

季節は春。少し肌寒さは残るものの、暖かい日差しも増えてきた。
愛子が薄手の部屋着のまま玄関の扉を開けると、そこにいたのは叔母である神村逸子(かみむらいつこ)。

「一緒に食べよ。カレーとご飯も持ってきたから。充もいる?」

「いるよ。」

「あ、やったね!おばちゃんのカレーじゃん!」

愛子の弟ー衣沢充(きぬさわみつる)も加り、食卓を囲む3人。
みんなでカレーを食べ始めると、味はいつも通り美味しい。

「おばちゃん、いろいろありがとう。ここ1ヶ月大変だったでしょ。」

「そうそう。引っ越しも仕事も学校のことも大変だったのに、俺たちのご飯まで作ってくれてさ。」

「何言ってるのよ。当たり前でしょ。あたしは、あんたたちの親みたいなもんなんだから。」

愛子と充の両親は、愛子が中学に上がる前に交通事故で逝去。その後、衣沢姉弟を引き取ってくれたのが、母親の姉であった逸子だ。
それからは逸子の家で暮らしながら、愛子は周辺の中核都市・谷川の中学・高校に進学。だが去年逸子が離婚して、この4月からは逸子と衣沢姉弟は、海辺の地方都市・南海へと居住を移した。

「ま、南海はとてもいい街だから。気候も人もね。何よりあたしとあんたたちのママが、学生時代を過ごした思い出の場所でもあるし。」

明日からは、愛子も充も南海の新しい学校への編入が決まっている。