新生活2ーカフェ海音

 愛子は、初登校を無事に済ませた後、アルバイト先の南海駅前の純喫茶・海音のホールに入っていた。3月中旬に南海に引っ越してきてすぐに、いくつかのアルバイトを始めたが、そのうちの一つが、この海音でのアルバイトだ。
一番の決め手は、海音店長兼オーナーである坂道真知子(さかみちまちこ)が、叔母・逸子の昔の後輩という縁。2人は仲良しだったというだけあり、よく似た雰囲気を持つ。

「愛子ー、今度、逸子さんにも店来てって言といてよね。」

「おばちゃんも来たがってるんですけど、仕事が忙しいみたいで。」

「まだ、谷川の病院に通ってるんだっけ?」

「それは先月までで、今月からはこっちの支病院に移れて喜んでました。」

「そっかそっか。……あ、愛子。ちょっとなか手伝ってくれる?」

海音は20席程度と小規模な喫茶店だが、ランチもディナーも、カフェもこなす。駅前という立地も影響して、なかなか繁盛していて時給も悪くない。

「助かるわ。愛子が中(厨房)もできる子で。」

「下準備とお皿洗いぐらいですけど。」

「それで十分よー。あ、そういや、学校どうだった?今日始業式だったんだよね?」

「海がきれいに見えるところでしたね。」

「はは、それだけ?」

「まだ、初日ですから。」

「そりゃあそっか。臨海高校は、私の知り合いの子も何人も行ってるからさ。何かあったら、力になってくれるはず。あと日曜日のバイトは、最近どう?山辺のマオ牧場。」

真知子の話題に出たのは、愛子のもう一つのバイト先で、真知子が紹介してくれたマオ牧場のこと。日曜日限定のバイト先で、愛子と同じ年の双子の姉弟がオーナーをつとめている変わった牧場だ。

「楽しくやってます。動物たちは可愛いし、マオ姉弟もよくしてくれてるので。肉体労働で、ちょと疲れますけど。」

「そっか、そっか。」

逸子の存在が影響してか、いろいろと愛子を気にかけてくれる真知子。だから愛子にとっても真知子は、年齢は違えど南海で最も信頼できる人間だ。